Annexe — Dictionnaires
最初の1冊の選び方、無料で使えるオンライン辞書、そして本格的に学ぶ方向けの研究級リソースまで。
機械翻訳が無料で使える時代に、なぜいまさら辞書を引くのでしょうか。理由は単純で、辞書は「答え合わせ」の道具ではなく、自分の頭で意味を組み立てるための道具だからです。翻訳ツールが出してくる訳文は、たいてい一見正しく見えます。けれども、ある語が文中でなぜその意味を取るのか、別の語ではなぜ駄目なのかを納得するには、語義の階層・例文・コロケーションを自分の目で見る必要があります。
本教材は受講者の興味関心に近いテクストを扱いますので、教科書の語注では足りない場面が早い段階で訪れます。そのとき辞書がいつでも手元にあるかどうかが、フランス語の伸びを左右します。本ページではまず最初に手にすべき辞書(仏和+和仏のセット)と、無料オンラインの上手な併用を紹介し、末尾に本格的に学ぶ方向けの辞書を追記しました。
ひとつだけ譲れない原則があります。「いつでも、すぐ、ためらいなく引ける」状態をつくることです。引かれない辞書は本棚の飾りになってしまいます。
第二外国語として学び始めるみなさんには、まず プチ・ロワイヤル仏和辞典(旺文社) をおすすめします。例文が短く実用的で、動詞の活用・前置詞のとり方など、初級の読解と文法学習に直接役立つ要点が押さえられているからです。第二外国語の指定教材として多くの大学が採用してきた定番でもありますので、迷ったらまずこれで十分です。
学習が進んで作文の練習に入る段階では、同じ旺文社の プチ・ロワイヤル和仏辞典 をあわせて使うとよいでしょう。仏和と同じ編集方針で対になっていますので、両者を行き来する時に語感がぶれにくいのが利点です。
辞書の中身(プチ・ロワイヤル)は同じでも、どの形式で持つかで日々の使い勝手は大きく変わります。わたしは (1) 物書堂アプリ を最もおすすめしますが、(2) 電子辞書・(3) 紙 にも固有の利点がありますので、3つを比べたうえで選んでみてください。
(1) 物書堂アプリ ― 最もおすすめ
「辞書 by 物書堂」は Apple の App Store でしか手に入りません が、一度購入すれば iPhone・iPad・Mac のすべてで使えます(同一 Apple ID で同期)。
新年度に履修登録と並行して、物書堂アプリでプチ・ロワイヤル仏和(必要なら和仏も)を購入する、というのが理想的なスタートです。
(2) 電子辞書
カシオ・シャープなどの専用機(電子辞書)も選択肢になります。追加コンテンツカードを購入すれば、プチ・ロワイヤルを含む各種辞書を1台に統合できる機種があります(収録辞書はメーカー・機種ごとに異なりますので、購入前に必ず確認してください)。
ただし、留意したい点が2つあります。
(3) 紙の辞書
紙には紙固有の利点があります。ページをめくる時間そのものが学習になり、画面に集中力を奪われません。書き込み・付箋で「自分専用の辞書」に育てやすく、停電や電源切れにも無縁です。
それから見落とされがちですが、1ページに複数の語が並ぶこと自体が紙の隠れた強みです。引いた語の前後・近傍に並ぶフランス語に偶然目が留まり、そのたびにフランス語に触れる機会が増えていきます。電子辞書やアプリは「目的の語だけが画面に出る」ぶん効率的ですが、この副次的な接触は削られてしまいます。
わたし自身、最初に使ったのは紙のプチ・ロワイヤルでした。机に向かっての精読が学習の中心になるなら、紙はそれに十分応えてくれます。
紙版についてくる Web辞書特典
意外と知られていませんが、現行の プチ・ロワイヤル仏和辞典 第5版(旺文社、2020年3月刊)には、購入者特典として Web 辞書が付属します。PC・スマホ・タブレットからアクセスでき、動詞の活用形・名詞や形容詞の不規則複数形からの検索にも対応しています。つまり、紙を買えば、無料でオンラインの電子辞書環境も同時に手に入るわけです。
特典の利用方法は紙の付録(シリアルコード等)で案内されますので、購入時の同梱物は捨てずに保管してください。
Windows・Android 環境で使いたい方へ(LogoVista 版)
参考までにふれておきますと、LogoVista から「プチ・ロワイヤル仏和(第5版)・和仏(第3版)辞典」のソフトウェア版が別売されており、Windows 版と Android 版が用意されています。物書堂アプリが Apple 環境のみであることの裏返しで、Windows 派・Android 派の選択肢になります。
ただしわたしの使用感としては、検索のレスポンスや UI の作り込みが物書堂アプリに比べて見劣りしますので、積極的にはおすすめしません。Apple 環境を1台でも持っているなら物書堂版を、Windows・Android のみで使うなら紙+付属 Web 辞書で当面しのぐ、という運用のほうが無理がありません。
プチ・ロワイヤル以外の仏和も視野に入れたい方には、参考までに2冊挙げておきます。いずれも紙版が中心で、書籍購入特典としてオンラインの音声サービスや無料ダウンロード音声が付属します。
最初の1冊としては引き続きプチ・ロワイヤルをおすすめしますが、文学テクストを読み始めたらクラウン、ニュースや時事に関心があればディコ、というように、学習の方向に応じて2冊目を選ぶ参考にしてみてください。
仏和を1冊もっていれば心強いですが、まだ手元に紙の辞書がない方や、仏和をもっている方の補助としても、以下のオンラインツールはぜひブックマークしておきたいところです。いずれも無料で、登録不要のものが多くあります。
書籍の辞書をまだ用意していない、まずは無料で仏和を引いてみたい、という方には以下の3つが手頃です。
ただし、本格的に学習を続けるなら、いずれかの段階で書籍版(プチ・ロワイヤル等)に移っていくことをおすすめします。語義の階層・例文の充実度・コロケーション情報は、書籍辞書のほうが厚みがあるからです。
Larousse
仏仏辞典としてもっとも気軽に使える老舗です。仏仏のほか仏英・英仏・仏独などの対訳辞書も同サイトから引けますので、語義の感触を確かめるのに便利です。例文がやや少なめなのが弱点といえます。
WordReference
仏英・英仏が中心です。「同義語の使い分け」と「ユーザーフォーラムでの議論」が宝の山で、学習者の素朴な疑問("on dit ça ou ça?")にネイティブが答えているスレッドが大量にあり、教科書には書かれていない生きた語感に触れられます。仏和では拾えないニュアンスを補強したい時にも使えます。
Reverso Context
実例文をコーパスから検索するためのツールです。映画字幕・公文書・小説などから、調べたい語句が実際にどう使われているかを並べて表示してくれます。例文の質に当たり外れはありますが、コロケーション(語の組合せ)を確かめるには非常に強い味方になります。
Linguee
EU文書を中心とした対訳コーパスです。仏和の対訳は乏しいですが、仏英・仏独では精度が高いので、WordReference とあわせて、英語経由で意味を確かめる際の補助に使えます。
注意 ― 機械翻訳サービスは辞書ではありません
DeepL、Google翻訳、ChatGPT などの機械翻訳・対話AIは辞書ではありません。文章まるごとを訳してくれる便利さはありますが、ある語の語義の階層・歴史・統語上のふるまいを把握するための道具ではないからです。下訳の確認や、自分の訳の検算には有用ですが、辞書の代わりにはなりません。本教材の課題に取り組むときは、まず辞書を引いてから機械翻訳に頼るという順序を守ってください。順序が逆だと語学力は伸びません。検定2級・準1級を目指す段階、あるいは本格的に文献を読み始める段階に入ったら、以下の選択肢が視野に入ってきます。
見出し語が約90,000語に広がり(プチ・ロワイヤルは約45,000語)、用例も約120,000収録されます。専門語彙・古い語法・派生語まで網羅されますので、プチ・ロワイヤルからの自然な乗り換え先になります。文学テクストや時事記事を継続的に読む段階では必須といえる一冊です。なお、紙の本体は2005年刊行の第2版が現行で、それ以降は電子版での刷新が続いています。
紙版はサイズが急に大きくなりますので、その重さを避けたい方には電子版が2系統あります。
辞書を「フランス語で読む」段階に入ると、ことばの輪郭が劇的に明瞭になります。最初に手に取るなら学習者向けの仏仏(FLE 用辞書)が無理がありません。FLE は Français Langue Étrangère の略で、外国語としてフランス語を学ぶ人を指します。Le Robert 社の学習者向けシリーズや、Larousse のコンパクト版がそれにあたります。書店でフランス語コーナーをのぞいて、見出し語の説明文の難易度が「読めば分かる」程度のものを選んでみてください。
仏仏は背伸びをすると挫折が早いので、「いまの自分が辞書の説明文を読み通せる」ラインを厳しく見極めるのがコツです。
ここからは、フランス文学・哲学・歴史・言語学などを専門として学ぶ段階の読者を想定します。ここに挙げる辞書は値段も嵩むものが多いですが、いずれも一冊一冊が学問の蓄積そのものです。図書館で実物に当たることから始めてみてください。
Le Petit Robert(Le Robert 社)
現代フランス語の標準的仏仏辞典です。語源・派生・歴史的初出年が明示され、用例は文学作品からの引用が中心となります。研究の最初の参照先として、紙の最新版を1冊手元に置く価値があります。オンライン購読版もあります。
Le Grand Robert de la langue française(Le Robert 社)
全6巻です。Le Petit Robert の母体にあたり、用例・語義の階層・廃語・地域語まで広く収録します。大学図書館で参照する辞書ですが、論文執筆段階に入った方は購読版(オンライン)の利用を検討する価値があります。
TLFi ― Trésor de la Langue Française informatisé
16巻本『Trésor de la Langue Française』(1971-1994)の全文をオンラインで無料公開したものです。CNRS の研究機関 ATILF が管理しています。語義の階層・歴史的用例の網羅性は紙の辞書を凌ぐ場面も多く、論文執筆では必ず参照することになります。インターフェイスはやや古いですが、慣れれば検索の柔軟性が高いのが特徴です。CNRTL ポータル経由でも引け、こちらの方がインターフェイスが洗練されていますので、普段はこちらを使うのが楽です。
CNRTL ― Centre National de Ressources Textuelles et Lexicales
TLFi と連携した語彙資源の総合ポータルです。語義・語源・同義語・反義語・派生語・形態論・統語情報が一画面で俯瞰できます。論文で語の歴史を跡づけるとき、まず開くのはここです。
Dictionnaire de l'Académie française
アカデミー・フランセーズ編纂の規範的辞書です。第9版が編纂中で、すでに公開されている部分は上記サイトで参照できます。古典作家の語法を確認する際に有用です。
Dictionnaire historique de la langue française(Le Robert / Alain Rey ed.)
通称「ロベール歴史辞典」です。語源・派生・意味変化の歴史を物語のように記述する辞書で、読みもの的な楽しさもあります。日本語訳はありませんが、フランス文化史・思想史を研究する方には必携といってよいでしょう。
Littré ― Dictionnaire de la langue française(1863-1872、各社復刻あり)
19世紀のエミール・リトレ編纂による古典です。17〜19世紀の用例を詳細に収録しており、古典フランス語のテクスト研究では今も第一参照とされています。オンラインの公開版もありますが、データの信頼性は底本との照合が前提になります。
辞書は道具であり、道具は使ってなんぼです。最初の1冊を決めたら、まずは引く回数を稼ぐことから始めてみてください。本教材の各 leçon でも、知らない語に出会ったらそのつど引き、自分のメモに書き写す習慣をおすすめしています。引いた語の8割は数日で忘れますが、残りの2割は確実に積み上がります。それで十分です。
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